科学機器 2007年5月号 - 趣味/随想 - に掲載されました

科学機器

< 2007年 5月号>

国 それぞれの文化が面白い A
雨宮  秀行
   

  2000年11月の第629号「リレー放談」にて、比較文化的に、『フランス人vs中国人vsインド人』を論じさせていただいた。 その後、変わらずに海外出張の折に、 各国におけるカルチャーショックに抱腹絶倒しており、実に時間の密度の濃い状況を楽しんでいる。
  さて、日本の理化学機器メーカーにとって、アジアやアラブや米国のマーケットを超え、特に欧州へ乗り込み、そこで伸長をしていくことはとても困難であるが、 故に遣り甲斐がある。 欧州各国にはローカルなメーカーが多数ひしめき合い、文字通り、凌ぎを削っているからである。
  その激戦区の欧州各国とコレポンするに辺り、各国の歴史文化、民族を十分に理解しておく必要があるが、これらをとても解り易く理解でき、尚且つ結構、 深い笑いを伴える「ネタ」を一つ紹介したい。
  ズバリ、「 天国と地獄 」のコンビネーションである。
  どうぞ。

<天国>             <地獄>
フランス人 → コック ← イギリス人
イギリス人 → 警察官 ← ドイツ人
ドイツ人 → エンジニア ← フランス人
イタリア人 → 愛人 ← スイス人
スイス人 → まとめ役 ← イタリア人


  まるで各国の評判の凝縮であり、数あるジョークの中で、私はこれほど簡潔且つ、的確なものを知らない。
  ところで、インドも中国もオモシロイ連中は多いが、大国、ロシア人やアラブ諸国においても笑劇は絶えない。

ロシア:
  ロシアを含め、旧ソビエト系の諸国にはどこか東洋的なビジネス流儀もありながら、欧州的なドライな経営手腕も混在している。

  入国にはその瞬間から「技術」が必要になる。 イミグレ用の入国カードはロシア語の記載しかないし、入管審査員はパスポートのページを一つ一つ入念に捲り、 何やらメモを取っている。 増補したパスポート所持者の場合なら、イミグレ通過に 5分は要される。 『スパイ』は依然としてこの国を知るべくキーワードのひとつであるが、 その官僚主義的なモノの考え方はこのイミグレにも、ホテルのリセプションにも、寿司バーにも見られる。 ホテルではパスポートは預けてコピーされ外国人登録をしなければならないし、 寿司バーの大きな照明には盗聴機器にも似た黒い装置が乗っかっていたりする。 外国人を狙ったニセ警官のワイロ対策に、IDの携帯すら余儀なくされる。

「何か欠けているものの方が完璧なものより美しい」
〜聖ヴァシーリー聖堂 赤の広場〜
  ロシア人を理解するキーワードは、『スパイやワイロ』の他にも多々存在する。
  『意味無く笑わない』・『ひたすら待つ』・『冬のヴォッカ』といった所だろうか・・・・?!
  ロシア人は愛想笑いをしない。  ”意味の無い笑顔はバカの印” という諺に代表されるが、 その色白で無表情のロシア人とのビジネスは慣れるまで時間を要す。 ロシアでは特別親しい相手でない限り談笑することはないし、 そもそも笑いは心から発するものとされているようだ。


  反対に言えば、彼らの笑顔が連続するような関係を構築できれば、ビジネスの成功すら超えた、とてもおしゃべりなフレンドリーなロシア系 の本質が見えてきたりする。  ”ホクロガスキー” とか  ”コンドハスコスコビッチ” とかやたらに 長い名前を持つ取引先のパートナーに対して、「ゴンザレス」とか「ゴーゴリ」とか適当(?)なニックネームを付けて呼び合うように成る頃、 二人の関係に本当の春がやってくる。
  その立春さながら、『ひたすら待つ』もこの国を象徴するキーワードであると同時に、最も必要とされる「技術」である。 白タクの溜まり場所、ボリショイサーカスのチケット売り場、ルーブルとの外貨交換所・・・どこでも、忍耐強く、長く待ち続ける場面を迎えることになる。  「1H待つといふこと。」 ソレは、我々とは全く観念の違う時間との付き合い方である。 ロシアの小説、バレエ、音楽が「長い」のも、この辺りのメンタリティが 多分に影響していることと感じる。

  最後に、長い冬を乗り越えるために、ヴォッカはマストアイテムだと言うロシア人は未だに多いだろう。
  そもそも間違っても、冬に訪問してはいけない。 二桁のマイナス気温は、ホントに「バナナで釘が打てる?」し(弊社代理店談@ヴォッカ飲酒中)、 第一、呼吸の度に肺が痛くなる。 ビジネスの可能な環境はそこには欠片すらない。 事実、歴史上、その冬将軍は西洋列強からの侵略の企てに立ちふさがり、 何度もロシア人を救ってきた。

「ヨーロッパに開かれた窓」
〜「権力美」エルミタージュ美術館〜

  そんな過酷な環境を救うべく登場するのがヴォッカであろう。 皮肉にもそのヴォッカはキンキンに冷やされていると、尚、美味い。 ロシア人にとって、 酒は絶対必需品である。 朝、昼、晩と酒を飲む。 ゴルバチョフ氏が人気を落とし、政権の座を追われた事実は、アルコール販売の取り締まりを強化したことであろう。
  だいたい、仕事の終わりは代理店との酒宴で締めくくられる。 いつものことである。 ヴォッカにチェレムシュやキャビアを合わせて当面のアピを満たしながら、 質素なボルシチやストロガノフを平らげると、独特の暖かさを感じる。 元気が出てきたら、キリル文字が透過するネオンがひしめくコーナーに移り、 速いユーロビートと怪しいブラックライトに包まれながら、ヴォッカベースのカクテルを注文してはじめて、ヤング世代のロシア人を知ることとなる。
  キーワード達は確かにロシア人を理解し得る切り口になろう。
  しかしながら、ソビエトの体制は、未だにロシア人の性格にある種、悲観と諦念の根を下ろし、たくさんの癖と不便さを引き継がせた。  「メーターの無い、運賃交渉のタクシー」、「政府認証を要する器械販売」、「油断すると、盗難に遭う展示会」、「宿泊ホテル内でも部屋ツケ不可の低サービス」、 「効率の悪い、アエロフロートグラホの発券業務」・・・・。
  融通の利かない社会制度には、舌を巻く場面が多々あるが、慣れてくると、それもまたアリ!と楽しみつつ、 割り切っている自身に遭える。

アラブ諸国:
  砂漠、黒い水、コーラン、テロ、競走馬、金スーク、黒いアバーヤ、ベリーダンス、ドングリ眼・・・。 人によって、印象は大きく異なる地域であろう。
  シンドバットはもう居ないが、これらの国々にはなぜか目の離せない「ワクワク」の魔法を掛けてくれる期待感がある。
  ロシアNIS諸国とは真反対のベクトルであるが、私はこのアラブ諸国が大好きである。 アラブ諸国は大概旅したが、ビジネスを語るなら、やはり、ドバイが本命であろう。


  キーワードは、『地球上にあるブルドーザの70%が、ドバイにある』であろう。
  事実、インフラ、インフレの真っ盛りであり、毎年、街の顔が変わる。 ここまで激しく様変わりする街を、私は他に知らない。 その証拠に、この街を正確且つ、 詳細に描いている地図はブックストアでも、レンタカーオフィスにも存在しない。 刻々と変化するインフラに出版社が追いつかず、おそらく諦めているのだろう。
    アブダビとマスカットを結ぶ主幹道路がドバイの街を真一文字に横切っているが、この高速道路から抜ける出口や他の高速道路へ続くジャンクションを一歩間違えてしまうと、 30分は時間をロスすることになる。 元に戻る道が造られていないからだ。 道はおろか、案内看板などの類は皆無であり、街路灯も無いケースでは、文字通り、 真っ暗闇の世界へ迷い込む。
  先日は、90分、路頭を迷った。
  特にリゾート地区であるJumeira周辺の開発は特筆で、奇想天外な、まさにアラブ人の発想なる造形が競うように乱立している。 その中でも、世界唯一の「7つ星」ホテルである、 Burj Al Arabは抜群なる存在感を誇り、つい拝みたくなるようなオーラを放っている。 エッフェル塔よりも高い、そのヨットを模したデザインは、ソフト面も別格で、 ホテル内部を回るツアーも存在する。 フロントドアを開けると7人の係員が待機し、一人づつ専門の役割がある。 すなわち、「歓迎の挨拶をする人」 「手荷物を受け取る人」  「おしぼりを渡す人」 「ビーツを薦める人」 「使ったおしぼりを受け取る人」 「ローズウォーターを渡す人」 「部屋まで案内する人」・・・・といった順番が展開されるようだ。 すべての部屋はスイートの2階建てで、調度品は全てエルメスらしい。
  この常軌を逸したサービスや質は、他のアラブ世界では考えられない。  都会度に関して、例えばドバイを100とすれば、サナ(イエメン)は10であり、アンマン(ヨルダン)は30であろう。 テルアビブ(イスラエル)にしたって60程度であるし、お隣のアブダビですら、70程度であろう。

「異次元への出航」
〜Burj Al Arabホテル〜

  この街が抜きに出ているに過ぎないのであって、アラブは基本的に、砂かゴツゴツとした岩砂漠の中に、土っぽいレンガ造りの平屋が広がっているイメージが通常であろう。
  しかしながら、ドバイには各周辺諸国から人が集まる。 日常品から贅沢品まで集結しているこの街の役目は、その買い物を満たすゲートウェイな訳である。

  『何しろスケールがでかい』が次のキーワードであろう。
  海中にホテルを造ったり、砂丘の中に人工都市を造ったり、最大級の人口スキー場まで完備しているところは、ドバイっ子の自慢であろうが、 同時に何かバランスの悪さも直感する。 現地のパートナーと「豊かさ」についての意見交換するとその歪の源泉が見え隠れする。
マジッド : 「ドバイや首長国は豊かだろう? ここでは何でも揃うんだよ。 だから人も物資も、皆集まってくる。 アフリカやインドからもな。」
雨宮 : 「そうだねー、スゴイね。 お金が有り余っている風情だよね。  ”お金持ち” だよな。」


マジッド : 「GDPもバンバンに上昇しているし、住んでいる我々も驚くほど発展しているよ。 その内、日本を超えていくよ。」
雨宮 : 「日本のGDPとは比較論にならないけれど、日本も技術でがんばっている国だから、生き残るさ。」
マジッド : 「あのエミレーツタワーやパームのスケールを見てみろよ。 贅沢なモノ全てを得た圧縮図だろう? 何でも手に入る国に成長したのさ。」
雨宮 : 「一理あるよね。 でも、冷蔵庫や洗濯機すら製造できない国が、本当に ”豊か” とは言えないんじゃないだろうか?」

  さて、最後のキーワードは、
  『法律と宗教の優先順位とその矛盾』だろう。
  ドバイはイスラムの国にあって、例外的にビジネスと観光を一気に引き受ける役割を持つ。 従って、アルコール飲料、高級スポーツカー、そして流れるプールまである。
   事実、ドバイのホテルバーに行けば、絶対禁酒のはずのクウェート人やサウジアラビア人達が羽を伸ばし、例の「ソーブ」と呼ばれる「オバQ」みたいな白いワンピースを着ながら、赤い顔をして悠然とスコッチを呷っている。
  片側6車線のハイウェイでは、レンタカーのフォードで法定速度で走っていたら、その2倍の速さでバンバン抜かれる。 だいたい車線を2つ、3つ跳び越していても、ウインカーを焚いたりはしない。 誰もがシューマッハであり、水より安いガソリンをマフラーからばら撒いている。
  スライダーや流れるプールを観察していると、やはりドバイで過ごす周辺諸国のリッチマンに遭遇する。 更衣室にはソーブが脱ぎ置かれ、同伴のご婦人はプールサイドなのにバーキンを片手に持っている。 そして、大好きな金のレースを腕やら、首やら、足首にくっ付けている。 それらは、一見の価値のある絵図である。 そんな彼らに混じってプールバーに赴き、禁酒のイスラムの国を意識しながら飲むカンパリソーダは、これはもう罰が当たるんじゃないかと思うほど、うまい。

「迷ったら子ども達に訊け」
〜San’a メディナの迷路〜

さて、 自由気ままに独論を展開させていただいたが、誌面の都合もあり、この辺りで纏めさせていただきたい。
  この国を観察していて、少しだけ人間の人生を投影することがあった。 一気に成長して駆け上がった時は注意が必要だと感じている。  落っこちるのも速いものだと気付かされる出来事も少なくない。
  いづれにせよ、この国々を定点観察するのにドバイは最適な街であることに間違いは無いし、 そして何かフッと蜃気楼のような不安定さを感じる瞬間がある。
  隣国のカタールのドーハ市もポストドバイを狙っているし、現にドバイのホテルやレストランのインフレは 異常な上昇率を見せており、ビジネス環境としては下降線であろう。
  直線的に加速するこの街も、迷いを見せる場面はあるはずだ。 「ドバイがどこに向かうのか?」  地図もコンパスも何でも必要なものを手に入れたとしても、迷いは歪みとなって現れる。 迷う理由は地図やコンパスがないからではなく、 「目的地」が霞み始めたからであろうか。

以上
((株)アタゴ 代表取締役)