老舗の「液体の濃度」を測る 株式会社アタゴ

coffee topics

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2023/12/06

Interview

実店舗での濃度計、pH計の使用方法について

Interview    -    Satoshi Hirota

広田様の画像

お味噌汁を飲んで「ホッ」とする感情は日本人特有のものですが、その「ホッ」とさせる感覚を世界規模で共有できる飲み物がコーヒーです

株式会社QAHWA
R&Dディレクター
広田 聡
Satoshi Hirota

この度、株式会社アタゴのコーヒー濃度計、pH計を株式会社QAHWAの広田様に実際に新店舗開発される際にご使用いただけましたので、実店舗での濃度計、pH計の使用方法から、測定器を使う必要性についてお伺いしました。 カフェ運営を考えている方や少しでも事業拡大を考えている方から、レストランとしてドリンクを提供する上で品質担保を目指す方など幅広く飲み物を提供される方におすすめの内容となっております。

株式会社QAHWAはコーヒー関連事業に関するコンサルや技術の指導、バリスタハッスルジャパンの運営なども行う企業で、2014年WBCチャンピオンの世界的バリスタ井崎英典氏が2019年に設立。「Brew Peace.」という理念のもと、様々な形で、人とコーヒーの素敵な出会いによる、豊かなコーヒーブレイクのプロデュースをされております。

INDEX

01 profile
広田聡様について
02 environment
濃度計、pH計の店舗での使用について
03 future
数値化という行為を、
可能性として信じ続けたい。

Interview    -    Profile

広田様について

広田様の写真

広田聡 / R&Dディレクター

大学にて有機化学を専攻。
発酵食品について研究。
卒業後は食品メーカー、国内製薬企業にて商品開発や基礎研究を担当。
2015年10月に製薬会社を退社の後、2019年に株式会社QAHWAに参画。
現在はR&Dディレクターとして、コーヒーと人が出会う素敵なきっかけを作られております。

大学で有機化学を専攻していたときも、いわゆる、ただのコーヒーヲタクだったんですが、客として井崎の店に通っていて、人となりが自然と伝わってくるようなコーヒー・接客でした。
コーヒー業界がここ5年10年でコーヒーだけを知っていてもしょうがない、という世界になってきています。その時、コーヒー業界のトレンドの一つに間違いなく醗酵というものがあり、それを噛み砕いて日本の市場に伝えるにはバックグラウンドにコーヒーじゃない物を持つ人間が必要だと井崎が考えました。ちょうどその時、製薬企業をやめてコーヒーを飲み歩く生活を送っていたところ、「ニートしているくらいなら手伝ってみないか?」と声が掛かりました(笑)。

矢印の画像

Interview    -    Environment

濃度計、pH計の店舗での使用について

きっかけづくり、愉しさを確かなバックグラウンドから支えている広田様ですが、濃度計やpH計はそれらにどういった手助けができるのかをお伺いします。

使用店舗について
●使用店舗名 渋谷ストリーム店 STEPHANIE Cannele & Coffee granita
●住所 東京都渋谷区渋谷3-21-3 渋谷ストリーム1F

路面店で、コーヒーグラニータとカヌレ(焼き菓子)をメインに提供 専門的な商品を提供しながらもバリスタなどは常駐せず、全自動コーヒーメーカーとアルバイトの方を中心に構成。
メニューはグラニータ、カヌレをメインに、その他アイスアメリカーノやラテなどのコーヒードリンクや、スパイスラテ・抹茶ラテといったアレンジドリンクも提供。

矢印の画像

コンセプトはコーヒーと触れる機会を増やすこと

今回、製品を使用した店舗は渋谷ストリームの「ステファニー」という路面店です。コーヒーグラニータと、カヌレのお店、要は冷たい甘いドリンクと焼き菓子のお店です。 メインとなるメニューのグラニータにはコーヒーを「主張しない程度」に入れてます。
先程話したように最初のきっかけというのがすごく大事だと思うんですが、渋谷という土地柄、コーヒー系の飲み物より、フラペチーノとか甘い飲み物の方が馴染みあるお客様も多くいらっしゃいます。その中で、何かのきっかけとして、コーヒーに触れてほしいとなると、コーヒーの主張が強い飲み物より、甘い飲み物の中に「あ、これコーヒー入ってるんだ」という製品を提供することで、コーヒーと自分の接点ができたと感じてもらえるような事業を作りたかったんです。

Interview    -    Example

品質管理の道具として使う。

数値はトップバリスタだけじゃなく、多くの飲食従事者も参考にしてほしい

個人の見解もあるのですが、今までのTDS計の一つの使い方として、自分のコーヒーが良い状態・理想とする抽出が達成されたのかという証明のために、TDSを見たり、飲んだりして判断していたと思います。

しかし、私は数値というのは、トップバリスタの抽出や最高級の素材のためだけに使うのではなく、管理するためのスケールとして存在するのが最たるところだろうと考えています。その前提であれば、バリスタでない方でも管理ツールとしての用途を見出せるのではないでしょうか

測定器は誰が、いつ、どこで、でも品質を担保できるというツール

店舗では、コーヒーなどの諸々の製品の管理として使わせていただいています。路面店なので、バリスタが常駐しておらず、ボタンを押すだけでコーヒーが出てくる全自動コーヒーマシンのみだけ置いています。ただ、グラニータのお店とは言いつつ、アイスアメリカーノやカフェラテと言ったメニューも当然あるわけですね。その中で、美味しいコーヒーをある一定の品質を担保しながら、提供するために使用しています。
グラニータの原液なども、仕込みのときにレシピは組んでいるんですが、常に一定かというとマンパワーが介在するので必ずしもそうではない。もちろん品質としては常に一定と言いたいところですが、何かしらの確証が欲しいんですね。その時に、数値は嘘をつきませんから、誰がいつ、どこででも品質を担保できるというツールとして使用させていただいています。

TDSで分からなくても、pHでわかるものがある

━━pHの使い方としては、豆の品質管理をメインに扱う方がいらっしゃいますが、今回もそのような使い方が主でしょうか?

いえ、それだけでなくて、グラニータの原液もそうです。
なにか計量ミスがあった際の判別で使用できます。砂糖が想定よりも多すぎたという場合だとTDSでも分かるのですが、コーヒー入れすぎたとかpHに関わる成分を入れすぎてしまったときに、pHが役に立ちます。
グラニータはなめらかな質感にするために結構糖分を加えるのですが、入れすぎると甘ったるくなってしまうので、少しだけ塩を入れます。塩を既定量の10倍入れたなど極端な事例だと味でももちろん分かりますが、そうではない微妙な量のミスがあった時に味では判断できなくてもpHが中性に寄ることで判断することが出来ます。
夏場に冷蔵庫の電源をつけ忘れて甘ったるい液体を保管してしまった場合、保存環境によっては腐敗する場合があります。pHが必要以上に落ちるケースもありうるので、味で判断出来ないときのもう一つの指標としてpHっていうのもありうるなと非常に感じています。

学ばずしてコーヒーのクオリティを担保できる

私も品質管理として最低でも週に一度は店に行き、その時の豆の焙煎度合いなどを加味して細かなマシンのキャリブレーションを行っているのですが、それ以外の時間帯はコーヒーの品質を管理できる人間が必ずしも店内にいるわけではありません。
ただ、そういう方であっても数値であればコーヒーをマネジメントできるというところが重要だと思っています。業界外の人間が学ばずしてコーヒーのクオリティを担保することできるってすごい強いんですね。例えば、この業界だけでなく、他業態でもフランチャイズとして展開するとき、マニュアルの数値が共通言語として強みを持つんです。特に、pHは腐敗の管理もできるということで、TDSと合わせて管理等という面で非常に強いスケールだと思っています。
大丈夫っていう判定を知識がなくてもできる。だって数字がこう言ってるっていうのは非常にありがたい。

店舗として提供したい”クオリティ”も管理できる

コーヒー業界あるあるかもしれませんが、例えば、90点のコーヒーより88点のコーヒーのほうが美味しいとお客様が言われたら、そのお客様にとってはそれが正義なんですよね。やっぱりそれって個々人の嗜好性や文化的背景に由来するものなので必ずしも全員が一致するものではないと思います。
あくまでも数値によって管理することは必要以上のエゴも排斥することができる。
店舗として提供したいサービスっていうのはこのクオリティですっていうのがあって、それを数値として、尺度としてちゃんと管理できるっていうのは非常に必要不可欠な要素なのかなっていうふうには思いますね。

濃度計やpH計はマニュアル化するのに適した道具

━━コーヒーメニューの製品開発は当初は鈴木樹様が行ったとお伺いをしましたが、製品開発での道具の出番や使用方法、流れのようなものをお伺いしたいです。例えば、この飲み物が出来たときに、TDS、pHはこれくらいだったからそれをマニュアル化しようという流れでしょうか。

あ、そうですね。製品開発はTDSベースというよりかはある程度は官能ベースで製品を開発しています。それを数値化、マニュアル化するときにTDS計やpH計で指標づくりをしています。

アメリカーノとかカフェラテなどのメニューはコーヒーのみでなくミルクが介在する以上、どこまで”コーヒー感”を出せばいいのかという確証を得るために、TDSは明確に必要になる指標になりますね。ただ、それって今回の場合は全自動メーカーなので、従業員が知らなくてもいい情報なんですね。
店舗運営という意味では、細かなキャリブレーションは私がしにいけばいいので、コーヒーをマシンやツールでがっつり制御できる点を信頼することで、その分スタッフには他のメニューや接客、清掃などに注力できることも店舗運営という意味ではメリットになります。

Interview    -    Potentiality

測ることに対する可能性。

各自が培ってきた哲学や知識を”沢山の消費者”に伝えられる。

ワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)などの競技会というのは、決してこの人間が世界一美味しいコーヒーを淹れられるんだぜ、っていうのを競う大会ではなくて、業界と消費者をつなぐアンバサダーであるかどうかを評価する競技会でもあるんです。
例えば、発酵させたコーヒーがトレンドになることによってそれを土壌的、地理的に、自分の表現するコーヒーに限界があった生産者が、新しいコーヒーを自身で表現できるかもしれないという方法を新たに確立することによって、結果としてそれが消費者の方に、コーヒーとして伝わる液体の中の表現の幅も広げることができるようになるかもしれない。
それでも結局のところは、消費者が飲まないと、生産者の意図は伝わらないんです。
消費量として大多数を占める一般のお客様に、そのコーヒーの味や可能性を無理なくお伝えするためには、やっぱり接地面というのは非常に増やす必要があるので、そのときにどうしても自分が介在できない瞬間の方が圧倒的に増えてくるはずなんです。その中で自身の哲学だったり知識、技術っていうのをどうやって担保させるかとなると、ファクターとして絶対に管理できる部分はするべきだ、と思いますので、そうするとTDS計や、pH計っていうのが必要になってきます。

知識や技術を数値でわかりやすく共有できる。

例えば焙煎なんかもそうで、今って比重とか水分率が重要なんですね。ブラジルとエチオピアの生豆を同じ焙煎機と使って同じキログラム数で同じような時間管理で焙煎しても、それぞれ温度域の動きが変わるっていうのは経験則として掴んでいる。ただ、自分以外の人間にも共有するためには、それが何でなのかを把握しないと説明出来ません。
自分のコーヒーをもっと多くの方に広めたい、自分がマネージャーとしても活動を広げないといけなくなったとき、培った技術っていうのをどうやって継承すればいいかとなり、ある程度は数値の管理が必要となり、その明らかな数値の担保として、焙煎だったら比重、水分率は本当に測られているところなんですよね。
そういう数値化できていなかったけれども、経験則として持っている部分というのは恐らくまだまだあると思います。

pHやTDSで数値の捉え方がまた変わっていく予感がする。

当然Brix、TDS、pHというスケールになってるんですけど、同じ数値の捉え方がまた変わってくると思うんですね。 先ほどお話したところで言うと、pHっていうのが原料の配合に間違いがないかといいうのと、不具合がないかというのもあって、二つのベクトルをpHっていうことで管理してます。
pHを測ることによってそれが何を意味するのかというのは、化学的な研究が進むコーヒー業界を考えると、今後多様的になってくるだろうなっていうのは予感としてはあります。
TDSと言ってもコーヒーの人間が聞くとコーヒーの成分を測ってる数値だ、となるわけですが、御社だとBrixも一緒に測られておりますし、本質的なところは液体の中に何かしらのものが溶け込んでいるかを示す数値なわけで、これを理解していればTDSがTDSである必要もないんですよね。
そこはこれからの、他業態の様々な方々が数値を管理していく中で、「自分なりに管理したかった項目は実はTDSの計測によっても管理できるよね」というような事も可能性としては十分に起こり得ると思います。

Interview    -    Future

数値化という行為を、可能性として信じ続けたい。

──今後、測定できたら面白いと思うものはありますか

コーヒーの特長を伝える際のフレーバー表現として「フローラル、シトラス」などや、マウスフィールの「スムース、シロップのような」などという言葉を耳にされる機会は多いと思いますが、それを数値化できたら面白いですよね。
最近ではコーヒーの抽出の序盤に存在する良い香りを閉じ込めるための抽出器具も存在しますが、TDSで必ずしも測定できるものではないので、達成できたらすごい、夢があるなと、感じます。

──もう数字を見れば味がわかるという様な感じですかね

そこに近い感覚になるんですよね。 そうなれば理論としての説得力も生じるので、それこそコーヒーのみの計測器具に留まる必要もなくなりますから、例えばカフェラテのミルクやカプチーノのフォーム(泡の部分)とかについても、それを明確に数値で管理することによって、よりもっちりしたっていうのが共通言語化できたりとか、あるいはラテで言えばミルクとコーヒーの一体感とかってよく言いますけど、そういったものが味なのか、食感なのか、香りなのか、どのベクトルがどういうふうに作用して判断した言葉なのかっていうのも理解できるようになるので、そうなればもう完全にコーヒーのみならずとも、あらゆる飲料に対する理解を促すツールになりうるなと感じます。